福島の脱炭素社会の実現に向けて、太陽光発電設備導入の成果とその広がり
福島県環境創造センター様は、本館、研究棟、交流棟「コミュタン福島」(以下、「コミュタン福島」)などからなる大型の県有公共施設です。2023年4月、NTTアノードエナジーによる太陽光発電設備がオンサイトPPA方式で導入されました。オンサイトPPAは、PPA事業者の資産として太陽光発電設備を構築するため、お客さまによる初期の構築費が不要となり、維持管理もPPA事業者が担います。福島県の県有公共施設では初めて採用されたオンサイトPPA。その導入の経緯と、およそ1年半経過した現在の運用実績について、同センター所長の青木 浩司様にお話を伺いました。

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課題
- 限られた予算での太陽光発電設備の導入
- 維持管理コストの削減と安定した電力供給の持続性
- 短い工期での太陽光発電施設の構築
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解決策
- 初期費用を必要としないPPA方式による導入
- 長期間にわたり安定した設備の維持管理
- 支店、本社、グループ企業の連携による新体制づくり
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効果
- 想定値を上回る発電量と温室効果ガス削減量の実現
- カーボンニュートラルの取り組みの県内外への波及
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福島県環境創造センター
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- 所長 青木 浩司様
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高く評価された実行力と技術力、太陽光発電設備の豊富な導入実績
推定樹齢が1000年以上とされる「滝桜」で知られる三春町。環境創造センター様は、その名所から北北東に直線距離で3.5キロの位置にある田村西部工業団地内にあります。
同センターは、原子力災害からの環境の回復・創造に取り組むための総合的な拠点として福島県が設置し、日本原子力研究開発機構及び国立環境研究所と連携し、モニタリング、調査研究、情報収集・発信、教育・研修・交流の4つの役割を担っています。2016年にグランドオープンし、2023年3月に太陽光発電施設が整備されました。その背景には、2021年に内堀雅雄県知事が宣言した「福島県2050年カーボンニュートラル」への取り組みがあると青木所長は語ります。
「これは、2050年を目標に二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするというものです。その実現に向けて、県民、民間団体、事業者、行政が連携し、オール福島で省エネルギー対策の徹底や再生可能エネルギーの最大限の利活用など地球温暖化対策の実践の拡大に向けた取り組みを推進していくこととしています」

環境創造センター様の太陽光発電設備の導入は、カーボンニュートラル推進の先駆けとなる事業でした。
公募型プロポーザルを経て、NTTアノードエナジーがこの事業を受注しました。NTTアノードエナジーが選ばれた理由としては、設備導入に際しての実行力や技術力が確かであり、確実に施工・維持管理ができる計画が評価された点が挙げられます。また、PPA方式による太陽光発電設備の導入・運転に関する豊富な実績があったことも、大きな要因でした。
初期費用の予算措置が不要で災害時の活用も期待できるオンサイトPPA
NTTアノードエナジーが提供するPPA方式には、オンサイトPPAとオフサイトPPAの2種類があります。オンサイトPPAは、お客さまの建物や敷地内に発電設備を構築し、そこで発電した電力を直接供給する方式です。一方、オフサイトPPAは、建物や敷地内にスペースがない場合に、遠隔地の設備を利用して送電網を介して電力を供給する方式です。
どちらの方式も、初期費用やメンテナンス費用を電気代として支払うため、構築と設備運用の予算措置の必要が無いことが特徴です。また、オンサイトPPAは、一般送電網を経由しないので、災害時には非常用電源として活用するシステムを選択することも可能となります。
環境創造センター様の敷地には、太陽光発電設備を敷設するための十分なスペースがあったため、福島県ではオンサイトPPAに着目。この事業を実施するNTTアノードエナジーは、長期間にわたって設備の維持管理と安定した電力供給を継続していくこととなりました。
短期間の工期と支店主体の体制づくりへの挑戦
環境創造センター様のPPA事業には、いくつかの課題がありました。その一つは、工期が5カ月足らずと非常に限られていたこと、もう一つは、このプロジェクトが同社内の支店、本社といった複数の組織が連携して進めていく必要がある事でした。
一方で「再生可能エネルギーの地産地消の推進」を掲げるNTTアノードエナジーにとって、地域によるエネルギー開発と利用を進めるこのプロジェクトは、地産地消の実現に向けた重要な一歩であり、非常に意義深い挑戦でした。そのため、より現場に近い、東日本事業本部東北支店が中心となり、事業を推進していきました。
本事業は限られた工期での取り組みでしたが、東北支店は関連組織と密に連携し、困難な課題を乗り越えました。環境創造センター様のPPA事業は、入札時に評価された「実行力や技術力」を証明する案件であり、それを見事に実証した事例となりました。

当初の想定を大きく上回る1年間の運用実績
環境創造センター様の太陽光発電設備は、年間発電量を45万kWhと見込み、施設全体の約14.4%の電力を賄い、温室効果ガスの排出量を年間約207.5トン削減できると計画されていました。では、2023年4月からの稼働実績はどうだったのでしょうか。
「昨年度1年間の実績として、年間発電量は約56万kWhで、センターで使用する電力の約20%を賄うことができました」と 青木所長は語ります。温室効果ガスの排出量についても、約267トンの削減効果が見られ、経費はPPA方式ではない通常の電力購入と比較して7%低減しました。計画を大幅に上回る実績が得られています。
また、メンテナンスについても「定期的に点検していただいており、これまで目立ったトラブルは報告されていません」とのことです。「故障や不具合を心配せずに済むのは大事なことですね。何も問題がないのが一番です」と安心感を示しています。
敷地内の発電設備が設置されているエリアでは、除草ロボットが活躍しています。これは、雑草が繁茂して太陽光パネルにかぶさり、発電を妨げるのを防ぐためのもので、NTTアノードエナジーのメンテナンス要員として重要な役割を果たしています。

期待されるPPA方式の県有施設以外への波及
センター内の情報収集・発信及び教育・研修・交流の場として位置づけられた「コミュタン福島」には、県内外から多くの学生が訪れています。学校の校外授業として、震災と原発事故からの本県の環境回復と復興とともに、ふくしまの現状や放射線、気候変動や地球温暖化の抑止、カーボンニュートラル、環境の保全と創造について学ぶ場となっています。
「小学生に限らず、中学生、高校生、大人向けにも、年齢層に合わせたプログラムを用意して実施しています。県のカーボンニュートラルの目標である2050年度までには四半世紀の期間があります。現在の取り組みを次の世代に引き継がなければ目標は実現できません。そのための人材育成にも力を入れています」と青木所長は語ります。
福島県が2050年のカーボンニュートラルを目指し、県民、事業者、行政が総ぐるみで中長期的に進めるこの取り組みの中で、太陽光発電の今後の展開はどのように描かれているのでしょうか。
「福島県が策定した『ふくしまエコオフィス実践計画』というものがあります。これは『地球温暖化対策の推進に関する法律』に基づき、温室効果ガスの総排出量削減を目的に、県が1事業者として定めた計画です。2030年度までに、設置可能な建築物や敷地に5000kW以上の太陽光発電設備を新規導入することを目標としています」
この説明を踏まえ、青木所長はこの1年間の運用実績に基づいて、オンサイトPPAによる発電設備導入への期待を次のように述べました。
「県が単独で設備を導入するのは、経費や技術、維持管理の面で難しい部分があります。今回のPPA方式のような導入しやすい仕組みを取り入れることで、県有施設のみならず、地方公共団体や民間の施設にも波及していくのではないかと考えています」
実際に、このプロジェクトを担当した県の部署には、県内外の自治体から導入のノウハウについて問い合わせが寄せられているそうです。

今回の事業は長期間にわたるものです。NTTアノードエナジーは、環境創造センター様の太陽光発電設備を見守りながら、安定した電力供給を行うとともに、福島県が進めるカーボンニュートラルの実現に寄り添っていきます。